2025年3月28日にミャンマー中部で発生した地震について

事業の継続に必要な企業の対応

– 事業の継続に必要な企業の対応 –

【要旨】

  • 2025年3月28日にミャンマー中部で発生した地震では、バンコクでも高層ビルを中心に建物からの退避指示が発出され、一時的な事業の中断を余儀なくされました。

  • 今後もミャンマーで大規模な余震が発生すると、オフィスの利用が制限され、事業の継続に支障をきたすおそれがあります。
  • 地震直後の初動対応および事業の復旧を円滑に行うため、事業継続計画(BCP)の基本的な考え方に基づいた準備を進めることが重要といえます。
  • 事業継続に必要となる対応を取りまとめたチェックリストを巻末に添付しますのでご活用ください。

本稿の目的


 本稿は、今回ミャンマーで発生した大規模地震の後続地震(余震)に備え、タイにおいて検討すべき事項を整理することを目的としています。InterRisk Asia Report <2025 No.02>に記載したとおり、タイ・バンコクでは今回の地震で長周期地震動により多くの高層建物に大きな影響が出ていることから、主にタイ国内の本社機能を含む管理業務の継続に必要な対応を中心に解説します。生産拠点や物流拠点については、今後明らかになる被害状況を踏まえ、必要に応じて本稿の続報で触れることとします。

企業の地震対応検討項目

(1) 必要な事業を継続するための措置

人的・物的資源が一部制限されている中で、どのように企業活動を継続するかを検討します。対応例は以下のとおりです。

なお、「必要な事業」はビジネスインパクト分析(BIA:Business Impact Analysis)と呼ばれる手法で検討します。BIAでは、まず初めに地震等のインシデント発生後、優先的に再開、継続すべき機能、サービスを以下の観点で洗い出します。

・売上・収益に対する悪影響を小さくする

・事業中断に伴う市場シェアの低下を防ぐ

・顧客・社会に対する供給責任を全うする

・企業のイメージを維持する

・従業員・ステークホルダーの損失を防ぐ

次に、自社にとって優先的に再開、継続すべき機能、サービスを、どのくらいの時間で再開させるべきなのか、すなわち、数時間単位なのか、数日単位なのか、数週間単位なのか、1カ月程度は許容できるのかを確認し、関係者間で合意します。本稿ではこれを最大許容停止期間と呼びます。

さらに、事業継続上、優先順位の高い機能・サービスがどのような経営資源に依存しているかを考えます。本社機能であれば主要な情報システムやネットワークなどのインフラが該当すると考えられますし、製造業であれば生産設備や部品、原材料およびそれらの調達先などが考えられます。

ISO22301では経営資源として、以下の8項目が例示されています。

・人

・情報およびデータ

・建物、作業環境および関連ユーティリティ(電力など)

・施設、設備および消耗品

・情報通信技術システム

・交通機関

・資金

・取引先、サプライヤー

事業継続上、優先順位の高い機能・サービスが依存している経営資源を特定した後、それぞれの資源が使用できなくなる可能性についてリスクアセスメントを行います。今回の地震では、主に建物、作業環境、交通機関に大きな支障が生じましたので、これらの資源に依存する、優先順位の高い機能やサービスがあれば、前述した最大許容停止期間を基に設定した目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)以内に業務が復旧できるよう、対策を講じる必要があります。

(2) 地震への備えの確認など警戒レベルを上げる措置

地震への備えを確認し、警戒レベルを上げて防災対応を検討します。対応例は以下のとおりです。

(3) 施設及び設備等の点検

地震が発生した場合に被害が生ずるおそれのある施設及び緊急的に稼働しないといけない設備等を点検します。また、不特定多数の者が利用する施設、危険物を取扱う施設等を管理、運営する企業は、第三者に危害を及ぼさないよう必要な点検を実施します。対応例は以下のとおりです。

施設の点検に当たっては、InterRisk Asia Report <2025 No.02>で解説した地震後の安全点検を迅速かつ適切に行うためにも、建物の設計図書から必要な情報、すなわち建築年や構造等の設計概要、構造柱の位置、平面図を抽出するとともに、点検箇所の写真を整理しておく必要があります。2025年3月28日の地震でひびわれなどの被害が生じている箇所については、定期的に写真を撮影することで、後続地震による被害の拡大有無を確認することも重要です。

(4) 従業員の安全確保

高層ビルの上層階に入居している企業等、従業員に危険が及ぶ可能性がある場合は回避する措置を検討します。対応例は以下のとおりです。

(5) 地震に備えて普段以上に警戒する措置

後発地震が発生した場合の被害軽減・早期復旧のため、余震の危険性が十分低下するまでの間、普段以上の警戒を継続します。対応例は以下のとおりです。

(6) 地域への貢献

それぞれの企業特性を活かして、後発地震に備えた地域における防災対応に貢献することを検討します。対応例は以下のとおりです。

(7) 情報の伝達

オフィスの使用可否情報など、各企業内において確実に情報が伝達されるよう、その経路及び方法を具体的に定めます。対応例は以下のとおりです。

(8) 防災対応実施要員の確保

各企業の防災対応の実施に必要な要員について検討します。また、防災対応を迅速かつ的確に実施するため、必要に応じて指揮機能を持った組織を設置します。対応例は以下のとおりです。

(9) 日本本社との連携

被害状況や対応方針を日本本社に連携することで、本社からの支援の要否等を検討します。本社に共有する情報の例は以下のとおりです。

まとめ

 本レポートでは、今回ミャンマーで発生した大規模地震の後続地震に備え、主にタイ国内の本社機能を含む管理業務等の継続に必要な対応についてまとめました。レポート作成日時点では緊急かつ応急的な対応が必要ですが、余震の危険性が十分低下した後、今回の対応を踏まえて事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)を策定または更新することが重要です。本レポートで紹介した対応事項を、より実践的な事業継続体制の構築にお役立ていただければ幸いです

MS&ADインターリスク総研
リスクマネジメント第一部
リスクエンジニアリング第一グループ長
佐藤 公紀

(参考)事業継続対応チェックリスト

事業の継続に必要な企業の対応
事業の継続に必要な企業の対応

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