前頁の図は左からそれぞれ、2024年1月1日~5月26日における累積降雨量(左図)、2023年1月1日~5月26日における累積降雨量(中央図)、2024年1月1日~5月26日における累積降雨量と平年値(過去30 年間の平均値)の差(右図)についてのタイ国内の分布を示しています。
5月26日時点の年初からの累積雨量を昨年同時期と比較すると、南部などの一部を除いて全国的に上回る降水量となっています。特にBangkok近郊含むChao Phraya水系の中部および北部地域において昨年より降雨量が増加しています。平年値との比較では、タイの多くの地域において平年値を下回っており、平年以上の累積降雨量となっているのは東部や北部・東部・中部の一部地域です。
2024年の雨季の予測概況
タイ気象局(TMD: Thai Meteorological Department)は2024年5月20日にタイの雨季が開始したと発表しました。2024年の雨季は10月中旬頃の終了が見込まれ、雨季におけるタイ全体の総雨量は平年値をやや上回った2023年の雨季と同程度と予測されています(昨年の雨季の総雨量は平年値より1%多く、年間の総雨量は平年より6%多い記録でした)。
7月までの雨季前半の総雨量は平年並み程度、8月以降の雨季後半の総雨量は平年より5%程度多くなる予測となっており、特に雨季後半は洪水発生に警戒する必要があります。
TMDによる最新の雨季の月別の降雨傾向予測は下記のとおりです。
[5月下旬~6月中旬頃]
・雨季の開始から降雨となる日が続き、降雨量が増加する予想です。
・特にタイ東部、南部、西部では、場所によっては非常に激しい雨が降ると予想されています。
[6月中旬~7月中旬頃]
・雨季の開始時期と比べ、降雨量が落ち着く予想です。
・干ばつしやすい一部の地域では、水不足による農業への影響が発生する可能性があります。
[7月中旬~9月下旬頃]
・大雨が降りやすくなり、雨量が非常に多くなることが予想されます。特に8月から9月にかけては、モンスーンの影響により多くの地域で大雨が頻発する可能性が高く、一部地域では非常に激しい豪雨により洪水や鉄砲水が発生する可能性が高まります。
・また、この時期には熱帯低気圧または台風が1~2個程度、タイの北部または北東部付近を通過する可能性が高くなると予想されています。
[10月頃]
・タイ北部と北東部では中国からの高気圧が広がり始め、降雨量が減少し、朝が肌寒くなり始めます。
・しかしながらタイ中部、東部、南部では引き続き大雨が発生し、一部の地域では非常に激しい豪雨も発生する見込みです。雨季は10月中旬頃に終了する見込みです。
下記に、2024年4月末にTMDが発表しているタイにおける月別の降雨量の平年値からの差異に関する分布図を示します。6~7月はバンコク付近を含む中部および東部、南部の多くの地域で平年以上の降雨量となり、8~10月は全国的に広い範囲で平年以上の降雨となる予想となっています。
エルニーニョ現象からラニーニャ現象への移行
エルニーニョ/ラニーニャ現象は、太平洋赤道域の中部および東部における海面水温が平年より高くなる/低くなる状態が数か月~1年程度継続する現象です。エルニーニョ現象およびラニーニャ現象は、タイや日本を含め世界中の異常な天候の要因となり得ると考えられています。
タイなど東南アジアにおいては、エルニーニョ現象の期間は高温と少雨による乾燥状態となる傾向にあり、ラニーニャ現象の期間は低温と降雨量の増加が発生する傾向にあります。
下図は、アメリカ海洋大気庁(NOAA)公表の、過去のエルニーニョ/ラニーニャの発現指標となるONI(海洋ニーニョ指数)の2000年以降(上図)および2020年以降(下図)の推移状況です。ONIが0.5以上となる期間が継続するとエルニーニョ、-0.5以下となる期間が継続するとラニーニャの発生を示します。数年の周期でエルニーニョとラニーニャが繰り返されており、直近では2020年中頃~2022年までラニーニャが発生したのち、2023年前半から2024年前半にかけてエルニーニョ現象が発生し、2023年末から現在にかけてONIの低下傾向が続いています。
NOAAは、昨年から発生していたエルニーニョ現象は現在弱まり中立状態に移行しつつあり、この中立状態が継続する可能性もあるものの、今年後半にラニーニャ現象に移行していく可能性が高いと予想しています。タイ(TMD)、日本(気象庁)、オーストラリア(BOM)等の気象機関も同様の傾向の予測を発表しています。NOAAの5月時点の予測では、5~6月頃までは中立状態である可能性が最も高いものの、7月には69%の確率でラニーニャ現象が発生すると予想しています。
以上のことから、昨年から続くタイにおける渇水傾向が今年の雨季中に大雨傾向へと遷移する気候となることが予想されるため、最新の降雨状況の監視と洪水への備えを確認することが重要です。
タイ政府は、ラニーニャ現象の発生により降雨量が多くなった2021~2022年を教訓に、ラニーニャへの移行による2024年の雨季における豪雨への対策として、以下の10項目につき対策を講じています。具体的な対策内容として、運河や河川の浚渫、関連するすべての水門や排水ポンプのメンテナンスなどが挙げられます。
[タイ政府による2024年の大雨対策]
BhumibolおよびSirikitダムの貯水量は年初から減少傾向にあります。Sirikitダムの貯水量はLower Rule Curve(これを下回るとダム放流量が制限される境界水位基準値)よりも低い状況であり、Bhumibolダムの貯水量もLower Rule Curveに向かって減少中です。両ダムの貯水量は2020年同時期をやや上回っていますが、2023年同時期と比較すると低い状況です。
Kwae NoiおよびPa Sakダムの貯水量は減少傾向が継続しており、渇水発生懸念の30%以下のレベルで推移しています。Pa Sakダムは渇水傾向であった2015年と2020年を下回る貯水率で推移していましたが直近では上昇傾向に転じています。Kwae Noiダムの貯水量は2023年とほぼ同じ推移状況です。
Chao Phraya水系の上流域(Chao Phrayaダムより北側)における河川流下状況
Ping川、Wang 川、Yom川、Nan川の全体的な水位は依然として低い状況です。1か月前と比較するとYom川とNan川の水位はやや上昇していますが、洪水が懸念される状況は特に発生していません。
Chao Phraya水系の下流域(Chao Phrayaダムより南側)における河川流下状況
Chao Phraya川下流も依然として水位が低く、目立った変化はありません。Singburiの観測所では河川水位が堤防天端から約11m低い状況となっています。洪水が懸念される状況は特に発生していません。
Chonburi県の主要貯水池は2021年以降で最も低いレベルで推移しています。Bang Phraの貯水レベルは2015年、2020年の同時期を上回っていますが、過去の傾向から8-9月頃までは貯水量の低下傾向の継続が想定されます。Nong Khoは2月頃から貯水率が渇水危険の目安上限値である30%前後推移していましたが、直近では増加傾向に転じており、2020年の貯水量を上回るレベルで推移しています。
Rayong県の主要貯水池の貯水レベルは5月中旬頃まで減少傾向が続き2021年以降で最も低いレベルで推移していましたが、直近では増加傾向に転じています。過去の傾向と2024年の雨季予報から、8月頃までは現在と同じ貯水レベルで推移するものと予想されます。
https://www.bangkokbiznews.com/environment/1123135
https://www.eastwater.com/media_file/weekly_water_situation_file/815/20240503-Water_Situation_and_mitigation_for_drought.pdf