【要旨】
ミャンマーの季節は、概ね10月下旬から3月までの乾期、4月と5月の酷暑期、6月中旬から10月中旬頃までの雨期と大きく3つの季節に分かれます。6月から9月にかけては湿った暖かな風が吹き込む南西モンスーン(季節風)の影響を受けて高温多湿となり、大雨や雷が発生しやすくなります。12月から4月にかけては北東モンスーンの影響を受けて比較的涼しくなります。
下図はミャンマー気象局による自然災害ハザード別の年間カレンダーです。特に警戒すべき期間としては、雷雨が3-10月、大雨が5-9月、洪水が6-10月、サイクロンが4-5月と10-11月、モンスーン低気圧による強風が5-9月とされています。
サイクロンは、インド洋北部、インド洋南部、太平洋南部で発生する熱帯低気圧全般を指します。ミャンマー含む北インド洋地域においてサイクロンは最大風速を基準として下記のとおり分類されており、インド気象局やミャンマー気象局の発表資料においては以下の用語が使用されています。ミャンマーが面するベンガル湾(北インド洋地域)では最大風速34kt(ノット、1ノットは約0.5144m/s)未満の場合をDepression/Deep Depression(熱帯低気圧)、34kt以上の場合をCyclonic Storm[CS](サイクロン)と区分され、特にCS以上の勢力のサイクロンでは暴風や高潮への警戒が必要となります。
下表は2014-2023年における、ベンガル湾でCS以上の勢力に発達したサイクロンの国別の上陸回数です。ベンガル湾では年平均で3個弱程度のサイクロンが発生しており、サイクロンは東→西、または南→北の進路をとることが多く、インド、スリランカ、バングラディッシュ方面への上陸・接近の頻度が高い状況です。過去10年間でミャンマー沿岸には2017年と2023年の計2回上陸しています。
また、ミャンマー気象局の過去の長期間統計データ(2005年までの119年間)によると、ミャンマーにおけるサイクロンの上陸時期は主に雨季の前後である4-5月と10-12月です。ベンガル湾ではDepressionレベルの熱帯低気圧を含めたサイクロンは年間で10個程度の発生で、主に5月から12月にかけて発生頻度が高くなりますが、雨季開始後の6-9月に過去に強い勢力のサイクロンが上陸したケースはありません。
ミャンマーにおけるサイクロン被害は、暴風や豪雨のほか、しばしば高潮被害が発生することが大きな特徴です。過去最も甚大な被害となったサイクロンは2008年5月のサイクロンNargisですが、甚大な高潮被害をもたらしました。サイクロンNargisは2008年4月27日にベンガル湾中央部で発生し、当初はインド方面に進路をとっていましたが、その後突然進路を東に変えて進み、5月2日にミャンマーのAyeyarwaddy川デルタ地帯に上陸し、その翌日にミャンマーとタイの国境付近で消滅しました。Nargisが上陸した沿岸部およびAyeyarwaddy川デルタは海面との標高差が小さい低地が広範囲に広がる地形条件であり、高潮被害を受け易いサイクロンの風向・気圧・進路の諸条件も揃っていたため、高潮による甚大な被害に見舞われ、その規模はミャンマーで記録されているサイクロン被害の中で最大となりました。高潮水位はYangon川の本流域部で3-4m、最大で7m超という報告もあります。近年、ミャンマーで大きな被害をもたらしたサイクロンは1968年(死者約1,000名)、1975年(死者約300名)に発生していますが、Nargisによる死者数は8万名超と桁違いの記録となっています。
ミャンマーはモンスーン気候の影響のため多雨地域であり、雨季には毎年のように洪水が発生しています。下表はミャンマー気象局公表の1997年から2007年までに発生した主な洪水の月別発生件数とその割合を整理したものです。洪水は6月から10月に集中し、特に7-8月の発生頻度が高いことが分かります。
ミャンマー気象局の統計によると、過去の洪水のうち約半数程度はミャンマー北部のサガイン管区で発生しています。また主要都市であるヤンゴン管区やマンダレー管区でも比較的多く洪水が発生しています。その他、カチン州、バゴー管区、モン州、カイン州(旧カレン州)、ラカイン州等でも洪水発生が記録されています。
下図は国連機関による共同プロジェクトで作成されたハザードマップで、ヤンゴン周辺では、Ayeyarwaddy川下流域のデルタ地帯を中心に洪水リスクが高くなっています。ほとんどは河川氾濫によるものですが、2008年のサイクロンNargisでは高潮による甚大な被害も発生しています。ヤンゴン管区ではヤンゴン市内と北部を除くほとんどの地域が洪水ハザードに晒されています。特にヤンゴン川沿いと河口付近の多くの場所では過去に頻繁に洪水が発生しています。
また、ヤンゴンに次ぐ商業都市マンダレー周辺も、各都市は河川沿いに立地しており、過去より洪水リスクに晒されてきた地域です。
多くの気象機関が今年後半のラニーニャ現象の発生を予想しています。エルニーニョ(El Nino)/ラニーニャ(La Nina)現象は、太平洋赤道域の中部および東部における海面水温が平年より高くなる/低くなる状態が数か月~1年程度継続する現象です。各国の気象機関が同地域の海面水温を監視しており、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は3か月平均の海面水温が平年よりも0.5℃上回る場合にEl Nino、0.5℃下回る場合にLa Nina、どちらでもない場合を中立状態(Neutral)と呼びます。
El NinoおよびLa Ninaは、世界中の異常な天候の要因となり得ると考えられています。ミャンマーなど東南アジアにおいては、El Ninoの期間は例年に比べて高温と少雨による乾燥状態となる傾向にあり、La Ninaの期間は例年に比べて低温と降雨量の増加が発生する傾向にあります。
NOAAは、昨年から発生していたEl Ninoは既に弱まりNeutral状態に移行しつつあり、今年後半にLa Ninaに移行していく可能性が高いと予想しています。タイ、日本、オーストラリア等の気象機関も同様の傾向の予測を発表しています。NOAAの6月時点の予測では、6-8月の平均海面水温の状態はNeutralである可能性が最も高いものの、7-9月は65%の確率でLa Ninaが発生し、少なくとも来年初め頃まではLa Nina状態が継続するものと予測しています。
以上の状況は、今年の雨季中にLa Ninaが本格化し、例年よりも大雨傾向となる可能性を示唆しています。
また、ミャンマー気象局が6月28日に公表した最新の雨季中期(7-8月)の降雨予報によると、ザガイン北部、マンダレー、マグウェ地域とシャン州南東部では例年以上の大雨や雷雨が予想され、ヤンゴン含むその他の地域では平年並みの雨または雷雨が予想されています。
企業においては平常時から洪水の危険性や対策の最新状況を把握し、計画見直しや訓練等により洪水発生やサイクロン襲来前後の対応を確認・強化することが重要です。次ページの平常時・災害発生前後災害発生前後の対応例を宜しければご参考ください。
_______________________________________________________________________